今井美樹 "retour"
"retour" ( 1990 )
歌 / 今井美樹
( FOR LIVE FLCF-31078 CD )
「今井美樹のような」――。
そうたとえるしかないようなすてきな歌声がいい。そこに生まれる空気感がいい。そのやさしい雰囲気につつまれる感覚がいい。
たとえば、岩崎宏美が、そのカヴァー・アルバムで今井美樹の『PRIDE』をうたっている。
岩崎宏美は超一流であるが、やっぱりこの唄は今井美樹でなければ、響いてこない。
今井美樹のうたう唄は今井美樹のためにできている。『PEACE OF MY WISH』など、ほかの歌手がうたえば、説教がましく聞こえてしまい、私ならディスクを放り投げかねない。
ただ、"Lluvia"に続くアルバム"flow into space"で、私自身はほのかな違和感をおぼえた。そして、"A PLACE IN THE SUN" で、自分が求めているものから離れてしまったな、という決定的なものを感じ、それを最後に、彼女のアルバムは買っていない。
したがって、私の愛聴するのは、主に、90年代前半までの彼女となり、もっているのは11枚。ライヴ盤が欠けている。会場の熱気など必要ないのでは……と考えて見送り、そのままになった。
いずれにも魅惑曲がふくまれていて、1枚もはずすことはできない。アルバム〝retour〝 は代表として挙げたにすぎません。
デビュー・アルバムの "femme" から5枚目の"mocha" まではアナログが存在。
"mocha"は、時代がCDにほぼ移行しとげたらしき時期に出たため、プレス枚数もすくないようだ。私もアナログでもっているのは最初の4枚まで。
特別愛惜ナンバーを思いつくまま列挙すると、『夏をかさねて』 『黄色いTV』 『retour』 『野性の風』 『Lluvia』 『笑顔』 『とっておきの朝を』 『flow into space』 『半袖』 『瞳がほほえむから』 『PEACE OF MY WISH』 『9月半島』……まだまだある。
サラリーマン時代――。
ゴールデンウイークがひと月後にせまり、私は会社に対し、GW10連休を要求した。出勤は暦どおり、と聞かされたからである。
大型連休を利用して北海道に行くつもりだった。その会社に就職したおかげで、毎年続いていた北海道行が、前年にとぎれていた。
先輩社員からは、みんなをはたらかせておいて自分は休みか、と至極当然な顔をされたが、意に介さなかった。
結局、休みまで毎週土曜出勤など、あれこれ交換条件を提示され、それらをすべて受け入れることで手を打った。
「すんませんなァ」
私は笑いをこらえながらそう言い、その場でフェリー会社に電話を入れ、チケットを押さえた。
GWの北海道はメチャメチャ寒く、内陸部は残雪がどっさりであり、雪上にテントを張らされたりもした。キャンプ場はどこもかしこもガランとしていて、心細いことこのうえもない。
今なら願ったり叶ったりのシチュエーションであるが、当時はまだ年季が足りなかった。
酒と音楽が心強い相棒だった。その音楽も、クラシックやジャズには手が伸びない。私が聴いていたのは、人の歌声ばかりであり、その中心となっていたのが山下達郎、そして今井美樹だった。
焚き火の前でホットウィスキーをやりつつ、同じカセットを毎夜、繰り返し聴いていた。時代はすでにCDになっていたが、電池の消耗度の低さでカセットのほうがまだ圧倒的に優位だったのである。
カセットは、やがてCDになり、今やオーディオ・プレーヤーになった。しかし、キャンプで聴く音楽はほとんど変わっていない。
今でも北海道に行くと、今井美樹の『retour』なんかを聴きながら、あの正味一週間のうち5日間が雨だったゴールデンウイークを思い出したりする。
キャンプの夜に、バッハやベートーヴェンがなくてもかまわない。だが、今井美樹がなければ困る。もし、聴けないとなると、ヘタすりゃ、キャンプ自体を中止することになる。
【シャコンヌ狂時代】
アリーナ・イブラギモヴァ Alina Ibragimova ( I ) クリストフ・ポッペン Christoph Poppen ( P )



風呂になんぞ入っていない。汗が乾き、塩昆布人間のようになっていた。





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