坂本九 『上を向いて歩こう』
『上を向いて歩こう』 ( 1961 )
歌 / 坂本九 詞 / 永六輔 曲・編 / 中村八大
(東芝音楽工業株式会社 JP-5083 EP)
幼いころ、母親について、ひと駅離れたスーパーまでよく買い物に行った。
親が食料品などを買いあさっているあいだは退屈なので、ほかの店をのぞいて時間をつぶした。
2階の〝専門店のフロア〟には、本屋からスポーツ用品店まで、さまざまな店が集合している。雑貨店、今でいうアクセサリーショップなどもある。
装飾された小箱が十ばかりならんでいた。
オルゴールだった。
なかに一つ、お気に入りがあって、その店へ行くたびに、そればかりいじっていた。曲がよかった。
結びつけてあるタグに曲名が記してある。ヘンな名前だ。
『上を向いて歩こう』――。
そのオルゴールがほしくてならなかったが、ガキにすればやや高額な品で、そう簡単には手が出ない。
ある日、親戚の人がウチを訪ねてきた。夏の暑い時季で、1泊か2泊して帰った。
帰り際、小遣いをくれた。千円札を一枚。
五百円あれば、たいていのものは買える、そんな気分になる時分の千円だ。分不相応な額と言っていい。
あのオルゴールのことを思い出していた。
数日後、一人で出かけた。
すでに夕刻だった。明るいうちには帰ってこれないのはわかっていたけれども、がまんができなかった。
スーパーに到着する。2階に駆け上がる。アクセサリーショップに直行、オルゴールを手にする。そのままレジに持って行く。
店員が、動作確認のためだろう、オルゴールのフタを開いた。砂金のような音色がこぼれ落ちた。
驚いた。
『上を向いて歩こう』ではない。デザインがまったく同じで、気がつかなかったのである。
取り替えをたのんだ。売れてしまった、と女性店員は言う。ずーっと置いてあったのに、と文句をつけた。だが、ないものはどうしようもない。
納得できず、しばらくそこで踏んばった。店員は困ったような顔で私を見おろしていた。
そのうちまた入ってくるから。やがて、そんななぐさめの声が聞こえた。
ふてくされて店を離れた。
外に出るとすっかり暗くなっている。泣きたい気持ちだった。
♪上を向いて歩こう
にじんだ星をかぞえて
思い出す 夏の日
一人ぼっちの夜
だいぶあとになってから、そんな歌詞を知った。あのときの自分そのものだったことに驚いたものである。



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